2021/11/07
時泥棒
登場人物 ・松尾(国会議員) ・水田(官僚) ・他、ニュースキャスター、警察 松尾「お主も悪よのー。こんなセリフ時代劇しか 使わんと思てたけど、いざとなるとでるもんやなー。」 水田「そーでしゃろ。お代官さま。いっひっひっひ。」 松尾「ところで水田くん。あんたの言うた通りにしといたけど、大丈夫かね。」 水田「先生、わたしに任せとって下さい。あんじょうしときますよってに。これ、おまんじゅうです。どうぞ。」 松尾「おーそうか。最近はコンニャクも流行ってろらしいがな。はっはっは。」 水田「先生、私ら官僚はね、学生の頃から勉強勉強。部活も恋愛もせずに、友達も作らんと勉強勉強。受験戦争に勝ち抜くために青春時代も捨てたんです。そしてようやく官僚というゴールに着いたと思てたらたちまち今度は同期と出世レース。これがまた能力うんぬんと違いまんねん。付いていく上司に私らの運命が決められまんねん。上司が出世レースから外れると私らまでアウトなんです。運よく残ったとしても、トップになれるのはたったの一人。そやから私らそれがおおよそ分かった時点で辞めまんねん。そのかわりせめてものご褒美にと「天下り先」というおやつがくばられまんねん。ただこのおやつ、先輩らの時代までは甘いあんころもちやったんですが、近ごろは毒まんじゅうです。」 松尾「最近のマスコミはきついからなー。」 水田「そこで先生に新しい天下り先をこしらえてもらいましてん。先生は国会議員ですから法律を作ってくれたらいいんです。新しい規則を作ってくれたらいいんです。」 松尾「おー。いうた通りにしてるがな。何て名前やったかいな。」 水田「もー忘れんとって下さいね。「時泥棒規制法」ですよ。」 松尾「も~一回まとめた資料おくれ。提出せなならんさかいに。」 水田「よろしいですか。時泥棒というのはすなわち誰もが平等に与えられている時間を他人のせいで奪われるということに対して処罰が下る。早い話約束の時間に遅刻をされて待たされた側は時間のロスをこうむる。その平等の権利を奪われるということに対しての罰則です。」 松尾「しかしこんなもんみんな納得するかえ」 水田「そこで先生の出番でんねん。先生は顔が悪いが演説は上手です。」 松尾「顔はお互いさまや。」 水田「マスコミにもウケはいい方ですし。」 松尾「あーその辺は心得ておるわ。奴らも人間や。いつも昼時分にメシおごったんねん。たまにはアッチの世話もしたんねや。そやさかいにワシの悪い記事見たことがないやろ。」 水田「さすが先生、ぬかりはありませんなー」 演説 松尾「世界はこのまじめな日本を手本にしています。電車がたった40秒、40秒ですよ。早めに出発してしまったからといって謝罪するんですよ。こんな国ありますか。これには世界も驚いたという風に聞きます。日本は時間を守ります。一分一秒も無駄にはしない国です。」 水田「いやー、この前の先生の国会演説、見事でしたなー。感動いたしました。ニュースでも繰り返し繰り返しやってましたなー。」 松尾「そ、そうかー。」 水田「新聞や雑誌も絶賛されてますよー。将来の総理大臣いうて。いよっ、総理。」 松尾「いやー、まいったなー。」 水田「先生、あとは詰めの作業。頼みましたよ。あっちこっちの献金と先生の使い道、私全部知ってるんですからね。」 松尾「わしを脅迫するんかえ。」 水田「そんなつもりはありませんよ。(にやっ) ただ政務活動費で息子さんのアンパンマンの本買ってもいいんかなー、なーんて。」 松尾「分かった分かった。」 演説 松尾「皆さん、日本は世界のお手本になろーじゃありませんか。時間のロスは経済活動にとってもマイナスです。一日は24時間。効率こそが一番大事にすべきことです。一分一秒を大切にしてバラ色の人生を送ろうじゃありませんか。」 議長「賛成多数により時泥棒規制法案、成立いたしました。」 ニュースキャスター「全国で時泥棒規制法違反者が続出している模様です。政府はこれを重く受けとりまして、さらに重い罰則を科す模様です。罰金から禁固刑に、ということです。」 水田「いやー、先生ありがとうございます。 うまくいきましたねー。わたしもこうやって特殊法人時泥棒規制協会の理事長です。毎日コーヒー飲んで仕事は終わり。砂糖いっぱい入れて甘―いコーヒーいただいております。」 ニュースキャスター「まだまだ逮捕者が減少しないことを受けまして、新たに国民格付け制度を導入する模様です。」 松尾「おいおい、水田くん。今度のは大丈夫か。」 水田「先生、こっちにも事情がおまんねん。いうても協会のイスに座れんのも2年です。また新しいイスを作ってもらわんと。こくみん格付け制度、よろしいなー。時泥棒違反の点数で「松竹梅」と人間を格付けして人区分カードを発行して電車に乗る時なんか移動距離に制限かけますねん。公衆トイレのトイレットペーパーの長さにも制限かかりますねんあーおもろいなー。はっはっは。」 松尾「水田くん。街中えらい騒ぎやで。電車に乗れへん、目的地まで行かれへんいうて。ちょっとやりすぎとちゃうか。」 水田「先生、何言ってますねん。罰金で国の金庫にお金が貯まってまんねんで。むしろ、えーことしてますんや。」 さー国民をバカにしたこの官僚の考え。どっこい庶民はそこまでアホではありませんたくましいというか、知恵があるんですなー ニュースキャスター「えーっ、街中で時計がなくなっているとのことです。学校では時間割が廃止され、駅の時刻表も取り外された模様です。会社は明るくなったら出勤し、暗くなれば帰宅する。ご飯は、お腹がすいたら食べて、テレビの番組表もありません。えー、ということですのでこのあとは適当にクイズ番組と歌番組を行います。のんびりお待ちください。」 警察「逮捕する!」 水田「ちょっとちょっと待って下さいや。私を誰や思てんねんや。」 警察「先ほど通報が入りまして、あなたの出勤時間が2秒遅れていたとのこと。」 水田「だっだっ誰や。そんなこと言うた奴。」 職員「しーーん。」 松尾「失礼すんで。おー水田くん。」 水田「せっ先生!助けに来てくれはったんですよね。」 松尾「いや、すまんな。警察には、ワシは何にも力ないわ。」 水田「先生、私を見捨てる気ですか。」 松尾「今度はな、市民活動家からの突き上げが激しいねん。何やセクハラで精神的にやられて賠償金を決めた法律を作ってくれとな。こっちの方が今忙しいねん。鏡を見てからものいうて、と言いたいとこやけど、我々弱い立場やろ。えーか、お前が考えた格付けでも「松竹梅」の人間やろ。ワシは政治家やで。選挙に落ちてみい。人間以下になんねん。」
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