2022/01/25
寿司屋でプロポーズ
登場人物・寿司屋の大将 ・たかし ・先輩 ・ようこ 大将 「江戸のー早寿司、うまいのー、うまいのー。江戸のー早寿司、うまいのー、うまいの。」 たかし「先輩、この大将お寿司握るのめちゃくちゃ早いですね。」 大将 「あー、お客さん、これ何にも握ってまへんねん。こうやってんとリズムが狂てしまうさかい、こない手うごかしてるだけですわ。」 先輩 「あー、ここ連れて来んの初めてやったな。ここの大将エエ味出してはるやろー。」 大将 「兄ちゃん、その通り。うちの味の素は、このお店の空気感やな。そやから<食う気>になるってか。」 たかし「先輩、ここの大将よーしゃべりはりますねー。でも私ね、こんなカウンターで食べるお寿司屋さん初めてなんです。回転寿司しか行ったことありませんわ。」 大将 「新入りの兄ちゃん、うちも実は回転寿司やで。ほら(くるっ)、わしが回りながら握りまんねん。」 たかし「先輩、この店大丈夫ですか?なんか心配になってきました。」 先輩 「はっはっはー。まあ、とりあえず一杯いこか。大将、生中2つ。」 たかし「くーっ、よー冷えてうまいっすねーさて、何から食べよっかなー。」 先輩 「まてまて、このお店は全て寿司コースのみや。大将が順番に出してくれはるさかいに、待っとったらええねん。」 たかし「それそれ、そのコース。憧れとったです。大人になったら、と思いながら、今まで食べに行く勇気がありませんでした。ありがとうございます。ごちそうになります。楽しみやなー。お寿司屋さんって時価っていうじゃないですか。高いイメージですもんね。」 大将 「へい、お待ち。」 たかし「来た来た来た。始めは細巻きからなんや。やっぱり違うなー。だいたいこういうもんは、回転寿司やったら、最期の方に食べますもんねー。」 先輩 「遠慮せんと、先食べや。」 たかし「はい、では、いただきまーす。ん?ん、うー。先輩、辛い辛い、あかん。何で?わさび入れ過ぎー。お茶、お茶、お茶くださーい。ふー。先輩、何で笑ってるんですか。もしかして罰ゲームかなにかですか。」 先輩 「はっはー。違う違う。ここの大将はお客さんの会話を全部聞いてはんねん。ほんでな、ここぞっというタイミングでわさびのたっぷり入ったお寿司を出してきはるんや。今のは<きゅうり巻き>やったやろ。別名<カッパ巻き>や。大将からのメッセージは<屁のカッパ>ってとこやな。」 たかし「先輩、それ先に言っといてくださいよ。真ん中の緑色、よー見たらきゅうりよりもわさびの面積の方が大きいじゃないですか。」 大将 「兄ちゃん、うちはそんな高い店やないで。<余裕でたいしたことない>ちゅうこっちゃ。ほんでな、寿司屋ではお茶のことは<あがり>言うさかい、覚えときや。」 先輩 「そうそう、あとはー、醤油はムラサキやろ。生姜はガリ。すし飯はシャリ。煮詰めはツメ。勘定はオアイソやな。」 大将 「お金の数え方もみんなあんねんけどな。これは教えられへんなー。店だけのもんが、お客さんの勘定を計算するのに使うさかいな。」 レジ係「大将、あちらと、こちらのお客さんお帰りです。おいくらですか?」 大将 「ホシとキワ。お嬢さんにはブリガネだけもらっといて。」 たかし「先輩、言うてはったお金の数え方の暗号ですね。」 大将 「暗号とは言わへんで。符丁ってゆうねん。ほんで兄ちゃんらだけに教えといたろ。寿司屋はな、お客さんのふところ具合みて勘定すんねん。せやから、兄ちゃんらみたいな若いお客さんからは、心配せんでも高うとらへんわ。」 先輩 「ええこと聞いたわー。ちょっと安心しました。さあ、食べよ食べよ。うっ、うっー。俺にも来たー。」 たかし「先輩は、マグロのづけや。」 大将 「その代わり、支払いの<ツケ>はききまへんで。」 先輩 「はい。んーん。鼻がもげるー。大将、<あがり>くださーい。」 たかし「先輩、お寿司屋さんのお客さん見てたら、なんか人生の一部分を切り取った、面白い人生ドラマみたいですね。」 先輩 「おっ、そんなん分かるようになってきたか。もう一人前の社会人やな。」 たかし「だって、隣は私と同じ上司と部下。さっきから、ずっと説教されたはりますしー。気持ちが分かりますわ。あっ、上司の人、急に悶絶しはじめました。大将、何のネタにわさび入れはりましたん?」 大将 「もうそろそろ、説教やめなはれで、<イカ>でいかんや。」 たかし「なるほどー。あっ、今度はあそこのアベックが悶絶。 大将、あれは?」 大将 「女の子には<赤貝>男には<ヒモ>や。そろそろヒモ生活止めて真面目に働きなはれっちゅーこっちゃ。」 たかし「んー、人生やなー。大将、私にも付き合ってる彼女がいるんです。今度連れて来てもいいでしょうか。実は、結婚しようと思ってるんです。この前、一緒に人生ゲームして遊んでいましたら、二人そろって幸せな結婚して上がったんです。ゴールインですよ。その時の彼女の顔見たら・・・。」 大将 「兄ちゃん、そんなにぼーっと口開けとったら、わさびほおり込むで。はいよっ、アワビ。兄ちゃんもこのアワビみたいとちゃうやろな。」 たかし「えっ、どうゆうことですか?」 大将 「アワビは一枚貝やろ。昔から磯の鮑の片思いって言うねん。ほんまに二人好きおうてんのんか?」 たかし「だ、大丈夫ですよ。そ、そんなん言われたら、心配になってきました。(パクッ)んーんーんー。わさびー。大将、わさび寿司は一回だけの決まりとちゃいますのん。」 大将 「今日はお得やろ。大サービスやで。」 *** たかし「大将、彼女が<ようこ>さんです。」 ようこ「ようこといいます。お願いしまーす。楽しみやわー。私ね、回転寿司しか行ったことないねん。ほんまにテンション上がるわー。あれ?大将何でクルクル回ったはんの?」 たかし「あー、あれ。あんまり気にせんといて。とりあえず一杯飲もーや。ビールでいい?大将、生中2つ。」 ようこ「んー、冷えてておいしい。でもこのお店、お客さんでいっぱいやねー。いいお店知ってるやん。たかし君見直したわ。」 たかし「ここは、寿司コースしかやってはらへんから、もし食べられへんネタあったら先に言うといてな。」 ようこ「そうやなー、それやったら<寿限無>かなー。」 たかし「寿限無?なにそれ?」 大将「おっ、おねえちゃん、落語分かんの?嬉しいねー。」 たかし「ちょっと、なになに?大将と何の話しで盛り上がってんの?さっぱり分からへんねんけど。」 ようこ「落語のネタやん。たかし君が、食べられへんネタ教えて言うたから、落語のネタを言うてボケてみたんやんかー。それやのにたかし君スルーしてまうし。私、学生時代、落研に入っててんで。」 大将 「それでかー。おねえちゃん、リズムのいいしゃべりかたしてる思てましたわ。ほんなら、これは?江戸のー早寿司。」 ようこ「うまいのー、うまいの。」 たかし「えーっ、何で分かんの。」 ようこ「落研やってたら分かるよー。ねえ、大将。<東の旅・軽業>ですよねー。」 大将 「ピンポーン。へいっ、おまたせ。」 たかし「んー?来たー。まさかの俺から。わさび....。」 ようこ「どうしたん?」 たかし「いやっ、何でもない何でもない。気にせんといて。タコかー。落語も知らんこのタコってか。くー。タコだけに墨(すみ)ません。」 大将 「おっ、やるな。兄ちゃん、タコだけにその調子でくっついてくんねんで。」 *** たかし「ようこちゃん、ちょっと飲み過ぎちゃう。」 ようこ「大丈夫って。ここのお寿司おいしいんやもん。なんぼでもお酒飲めるわ。それに大将と落語の話しで盛り上がるし。焼酎水割りくださーい。」 たかし「実は、今日ようこちゃんにこれを渡したかってん。」 ようこ「なに、なにー。開けていい?えーっ、指輪やん。どうりで指のサイズ聞いてくると思っとったんよー。もーちょっとロマンチックにでけへんかったん。私酔うてしもてるやん。」 たかし「ごめん。でも、本気やねん。結婚しよ。」 ようこ「ウェーン。ウェーン。」 たかし「ようこちゃん。そんなに泣いてくれんの。そんなに喜んでくれたん?」 ようこ「ちがーう。ちがーう。なになに?辛い辛い。わさびが口にー。なんなんー。ムリムリー。」 たかし「大将、なにやってくれるんですか?今ですかー。話し聞いてましたー?あんまりやないですか。一世一代のプロポーズやのに。ようこちゃん、ごめんな、言うてなかったけど、このお店のシステムなんや。大丈夫?大丈夫?大将、いつもよりわさびの量多いんとちゃいますか?まだもんどりうって泣いてますやん。」 大将「大丈夫、安心しーって。じきに<あがり>を欲しがるよってに。」
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