2021/11/18
米騒動
登場人物 ・羽黒(役所の係長) ・新田(役所の新人) ・他、市長 羽黒 「えらい市長入って来たがなー。」 新田 「羽黒係長。エライ?賢いんやったらいいんちゃいますの。」 羽黒 「ちゃうがな、大阪弁でエライは、大変やっちゅうこっちゃ。お前は、この春入社の新人やし、他の町の出身やからよけいに知らんと思うけどな。ええか。うちの町は毎年副市長、いわゆる役所の中の役人のトップが選挙に出て市長になんのや。そやから上司や仲間内やから、その下についていてたもんは、それで出世できんねんで。俺も出世コースのはずやってんけど、この選挙で上司が負けてしもたんや。」 新田 「はー。」 羽黒 「はー、ってな、お前これがどういうことか分かってんのか?俺その甘い汁、いわゆる特権・・・。」 新田「あー、ワイロですね。」 羽黒「あほ、声が大きいわ。グレーや。」 新田「羽黒やけど灰色。」 羽黒「しょうもないこと言わんでええねん。あのな、お前はもう俺の部下やで。同じ高校の後輩やから目かけたんや。そやから信用もして何でも話ししてんのやで。もう俺から一生離れられへんで。」 新田「いやや。」 羽黒「ところで高校時代何部に入ってたんや?」 新田「はい。地球環境を考える会に入ってました。」 羽黒「えらい堅苦しいクラブやな。何をすんねや?」 新田「はい。地球温暖化について討論し、CO2排出権についてヨーロッパにも勉強しに行きました。」 羽黒「おっ、それやがな。まさにそれ。それって排出権ビジネスっていうねん。」 新田「ビジネス?違いますよ。地球温暖化を防ぐための国際的な取り決めです。」 羽黒「これが利権や。金の成る木や。お金のやりとりには仲介がいるやろ。ここの仲介屋手数料がビジネスや。」 新田「何か怖いですね。私、勉強したこと間違ってますか。」 羽黒「いや、勉強は間違ってないねんけど、これを利用する賢いやつらが世界にはいるんや。で、その仕組みを利用してうちらの町もやってるんや。」 新田「それは何ですか?」 羽黒「立ち小便放出権や。」 新田「えーっ。」 羽黒「えーって、その名の通りやないか。立ち小便したいやつがせーへんやつから権利を買うねん。その権利あれば立ち小便し放題や。」 新田「しょうもな。」 羽黒「何いうてんねん。もう始まってんねんぞ。」 新田「でもそんな立ち小便してる人見ませんが。」 羽黒「ここからがミソや。お前知ってるか。立ち小便できなくなる最強のデザイン。」 新田「知りません。」 羽黒「これ分かる?鳥居のマーク。神社のマークや。日本人やったらここにはしょんべんでけへんねん。そやから町としてはしょんべんの規制もするから、シール業者からの接待があるやろ。ほんで今や、しょんべん権が一人歩きして投機の対象になってんねんぞ。」 新田「アホらしいけど、ほんまなんですね。」 *** 羽黒「えらいことになってしもたがな。」 新田「どうしたんですか?」 羽黒「お前聞いてないんか。今月から俺らの給料、お米で支給されるんやぞ。」 新田「アホな、江戸時代やあるまいし。」 羽黒「その江戸時代やがな。今度の市長歴史オタクで、今日も紋付き袴でちょんまげしてたで。」 *** 市長「うちの町は縄文の時代から稲作づくりをしてきた長い歴史をもつ町です。わが町では自給自足を目指します。市民の皆さん、農業にはげみましょう。」 *** 新田「先輩、給料重たいですね。どうして持って帰ったらいいんでしょうか。」 羽黒「ほれ、外見てみい。タクシーずらっと役所前に並んでるで。ほんでいつの間にか周りに両替所もいっぱいできてんねんぞ」 *** ニュースキャスター 「いばら市では公務員の給料がお米になりました。米づくり農家への転職が若者を中心に増加中です。町の市街地では田園風景が広がっています。米相場も始まり全国からの投資家のお金が、いばら市に集まっているもようです。」 *** 羽黒「おい、どないする。」 新田「何ですか。どないするも、近ごろ景気がよーなっていいじゃないですか。」 羽黒「違うがな。俺らの隠し金や。」 新田「あー、ワイロですね。」 羽黒「大きな声出すなっちゅうねん。あれからみんなお米で持って来よるから置くとこあらへんがな。とりあえず使ってない会議室に積んであるけどもはいりきらへんわ。」 新田「ほんまですね。あっ、いい手があります。」 羽黒「なんや。」 新田「マネーロンダリングしましょう。」 羽黒「それやそれや。どうしたらええんや。」 新田「無洗米に交換しまんねん。資金洗浄だけにお米も洗浄。」 羽黒「あほ。しょーもないこといいやがって。お米のかさは変わらんやないか。両替するのも1回につき2升5合までときまってるしなー。」 新田「そうそう益々繁盛(升升半升)言うて。」 *** ニュースキャスター 「大型の台風が接近しております。十分に警戒をして下さい。大変勢力の強い台風が接近しています。」 *** 市長「今回の台風で大変な被害がもたらされました。おそらくお米の収穫にも大きな損害が見込まれます。今年の年貢も抑えます。こういうときのための備蓄米、羽黒係長、よくやったぞ。あの会議室のお米、これで乗り切っていこう。」 *** 新田「先輩、褒められましたね。 羽黒「何喜んでんねん。」 新田「先輩も嬉しそうでしたやん。」 羽黒「まあな、思いのほか出世してボーナスも出してもろたわ。大量の茄子と棒。ギャグが過ぎるけど、俺ら泳がされてたんやろな。お米やとお金と違っていつかは腐るし貯める意味がないもんな。今から俺も心入れ替えてまたもしものための備蓄米していくわ。そやから俺ら役人は古いお米から口にすんねんぞ。古米や古古米から食べていくんや。」 新田「えーっ。私は新しいお米が食べたいわー。あの、炊き立てのお米の香り、たまりません。」 羽黒「まあええか。まだお前は駆け出しの新米やもんな。」
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